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Vol.196 労働時間規制の緩和検討の背景とポイント
「労働時間規制の緩和検討の背景とポイント」 代表取締役 福山 研一
今回は、高市総理が検討を指示した「労働時間規制の緩和」について、その背景を含めて整理し、中小企業として押さえておきたいポイントを考えてみたいと思います。
まず、なぜ今このタイミングで「労働時間規制の緩和」の検討が登場したのか。背景には主に以下のような事情があります。
1つ目は、長引く 人手不足・労働力の減少 という構造的課題です。特に物流、建設、サービス、地域中小企業などで「人は足りていないが、働ける時間・体制が制限されていて対応し切れない」という声が増えています。
2つ目は、現行の時間外労働の上限規制が定着後、「働きたい人がもっと働きたい」「選択肢を広げたい」という声、また「規制がかえって働き方や生産性の選択を狭めている」との指摘が出始めている点です。
国会の代表質問では、「残業代が減ることによって、生活費を稼ぐために無理をして副業することで健康を損ねてしまう方が出ることを心配している」という発言もありました。
こうした背景に加えて、政権の成長戦略、企業活動における迅速性・競争力確保の観点からも、規制の見直しを求める声が高まっています。
一方で、この動きに対しては、「働き方改革で進めてきた長時間抑制の流れを逆戻りさせてはならない」という警鐘も鳴らされています。
では、この動きを中小企業の皆さまがどう捉え、備えておくべきかを改めて整理します。
● チャンスとして捉える
まず、中小企業にとっては「働き方の選択肢を広げる」きっかけとして捉えられます。例えば、今まで時間外上限や働き方の枠組みで諦めていた「プロジェクト集中」「副業併用」「シフト融通」などを、制度改正を契機に設計し直す機会となるでしょう。社員が「もう少し稼ぎたい」「働く時間を自分でデザインしたい」というニーズを持っていれば、これを採用・定着の訴求材料にすることも可能です。
● リスクを前提に守るべきラインを整理
ただし、規制緩和=無制限ではありません。社員の「心と身体の安心・安全」は変わらず最優先です。過労死認定基準(月80時間超や年720時間近い残業など)とも重なっており、国もこの点を認識しています。
中小企業としては、たとえ規制が緩む可能性があっても、社内で「どこまでが許容範囲か」をあらかじめ設計し、社内合意を取っておくことが肝要です。たとえば、「月80時間以上の残業は原則不可」「深夜・休日勤務後は必ず36時間以上の休息を確保」「若手・未経験者には残業を制限」など、実践的なラインを打ち出しておくと良いでしょう。
● 運用設計・メッセージ化で優位性をつくる
さらに、制度論に先行して『運用の設計力』を高めておくと、変化をチャンスに変えやすくなります。勤怠管理システムの見直し、時間外・休日労働実績の可視化、個別働き方協議制度の構築など、社内の“仕組み”を先取りして動くことで、「働きたい人が選びたくなる会社」というメッセージを打ち出せます。また、採用資料や会社紹介に「時間を選べる/プロジェクト集中勤務OK/裁量残業あり」などの記載を加えれば、周囲との差別化にもつながります。
以上、今回は「労働時間規制の緩和検討」がなぜ今動き出したかという背景も加えてお伝えしました。中小企業の視点からいうと、制度改正そのものよりも、「自社の運用・働き方設計をどう更新するか」が問われるタイミングです。規制が動く前に、独自のルールを描き、社員と話し、採用・定着の観点から新たな働き方の枠を整えておくことが、今後の“働きたい会社”づくりの鍵になるでしょう。