Vol.192 参院選に向けた雇用政策の注目ポイント

「参院選に向けた雇用政策の注目ポイント」 代表取締役 福山 研一

2025年7月の参議院選挙は、企業経営に密接に関わる「雇用政策」が重要な争点の一つとなっています。物価高と人手不足が同時進行する中、各政党が掲げる政策は、賃金設計や人材確保、採用制度に直接影響を及ぼす可能性があり、経営者・人事担当者にとって無視できない選挙となりそうです。

なかでも、注目されているのが「賃上げ政策」です。与党(自民・公明)は、物価上昇を上回る所得増を目指し、2030年までに給与100万円アップを掲げています。賃上げ企業には税制優遇や補助金の継続支援も示唆されていますが、特に中小企業にとっては、人件費負担と原材料コストの高止まりの板挟みで、実現にはハードルがあるのが現実です。
一方、立憲民主党や共産党は、「実質賃金の改善」を目的に、広く家計を支援する給付金や消費税減税を打ち出しています。短期的には消費喚起が期待されますが、将来的な財源として法人税や社会保険料の増加が議論される可能性もあり、企業の中長期的なコスト計画には注意が必要です。

もう一つのキーワードが「年収の壁問題」。パート社員が働き控えを余儀なくされている現状を踏まえ、国民民主党などが壁の撤廃や社会保険料の柔軟化を主張しています。これは、店舗型ビジネスや中小事業者にとって、即戦力人材の稼働を最大化できる環境づくりとして期待される政策です。
加えて、最低賃金引き上げの動向も見逃せません。社民党やれいわ新選組は最低賃金1,500円を掲げ、政府補填を含む積極財政を訴えています。これにより地方やサービス業を中心とした中小企業では、大幅な人件費増となる可能性もあるため、事前に複数のシミュレーションをしておくことが重要です。

また、外国人労働者の受け入れ政策にも各党のスタンスに違いがあります。維新の会などは受け入れの拡大を視野に入れた制度整備を主張する一方、参政党などは移民受け入れの抑制に言及しており、業界によっては大きな制度変更に直面することも考えられます。

非正規雇用については、正規転換支援を重視する与党に対し、れいわ新選組や共産党などは「非正規の入口規制」を訴えており、雇用形態の柔軟性を求める企業との意見のズレも目立ちます。採用方針の見直しを迫られる可能性もあり、動向を注視すべきです。

今後の選挙結果次第で、雇用を取り巻く制度や支援策は大きく変わる可能性があります。制度変更への対応力はもちろん、政策の本質を見極めた人事戦略の再構築が企業の持続成長の鍵を握ります。

選挙は“国民の選択”であると同時に、“経営者にとっての未来予測”でもあります。
私たちも引き続き、政策動向と企業現場の接点についてわかりやすく情報発信してまいります。