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Vol.190 ”静かな退職”が意味するもの
「新年度に活用できる雇用関連の助成金」 代表取締役 福山 研一
近年、注目を集めている「静かな退職(Quiet Quitting)」というキーワード。実際に退職するわけではなく、「必要最低限の仕事はするが、それ以上の貢献や主体的な行動を控える」といった働き方を指します。海外のSNSを起点に広まりましたが、日本の職場でもその兆候は見られつつあります。責任外の業務や、成果に反映されない努力をあえて避ける選択とも言えるでしょう。
これは単なる“やる気のない社員”と片付けられる話ではありません。むしろ、従来型の「会社に尽くすべき」「指示がなくても動くのが美徳」とされてきた働き方への静かなカウンターとも捉えられます。背景には、働く側の価値観の変化があります。人生の豊かさや心の健康を重視し、「仕事は生活の一部」と捉える若手社員も増えてきました。
企業にとって「静かな退職」は、表面上では目立ちにくいため、気づいたときには業務効率やチーム全体の士気に影響を及ぼしていることがあります。従業員が「報われない」と感じれば、自発性や創造性は失われ、やがて“実際の退職”に至る可能性も否定できません。
一方で、静かな退職にはポジティブな側面も存在します。それは「ワークライフバランスを見直す契機」であるという点です。従業員が仕事と私生活の境界を明確にし、自身の健康や家庭を大切にしながら働くことは、長期的に見れば燃え尽き症候群の防止や離職率の低下にもつながり得ます。
また、静かな退職の兆しを“問題視”するのではなく、“組織の課題を映し出す鏡”として捉えることも大切です。たとえば「上司が何を評価しているのか分からない」「努力が見えづらく、昇給に反映されない」「提案しても反応が薄い」といった声が聞こえてくるなら、それは組織の構造やマネジメントスタイルを見直すチャンスです。
具体的な対策としては、次のような取り組みが挙げられます。
・定期的な1on1ミーティングによる心理的安全性の醸成
・プロセスや協働姿勢も評価対象とする人事制度の再構築
・社員一人ひとりのキャリア志向を対話で把握し、役割設計に反映する
経営者や人事担当者にとって、「静かな退職」は組織の空気の変化を知る“アラート”です。そして、社員の“声なき声”に耳を傾ける姿勢こそが、組織の健全性と持続可能な成長を支える第一歩となります。
時代とともに、働き方は変わります。求められているのは、「働かせ方」ではなく「働きたいと思える環境」づくりです。「静かな退職」は、私たちにそれを再認識させてくれる、静かで力強いメッセージなのかもしれません。